南米で出会った人々と感想

南米では多くの旅仲間に出会った。彼らとは旅情報を交換したり、治安の悪い地域を一緒に移動したり観光したりした。

不慣れな地ではストレスフルになりやすく、また、値段交渉等においては不利な立場になる場合が多い。この時、何人かで交渉した方が有利に働く場合がある。なにより、お互いに話すことで旅先での孤独感、憂鬱感を遠くに追いやることができた。

そんな旅仲間にも、色々な人がいた。ここでは、彼らと出会って接した感想を残そうと思う。ただ、あくまでも一つの事象に対する主観的な感想であり、個人を批判・否定する目的はないこと、今後その感想・考えが変わる可能性があることに留意されたい。


1.世界一周夫婦

世界一周を目指して南米を周っている数組の夫婦に出会った。ルートは、アメリカから中米を抜けて南下するか、アフリカかヨーロッパから入って北上するかのいづれかだった。前者が多かった。南米が予想よりも良くてつい長期滞在してしまったという方、また、南極を目指す方もいた。
結婚直後の20代後半から30代前半の方が多く、皆仕事を辞めてきたという。重いバックパックを背負って安宿を転々とするのはとても大変そうに思えたが、助け合って旅している姿を見ると仲睦まじいように感じられた。彼らは自分のパソコンやネットカフェでインターネットにアクセスし、常時旅情報等を得ながら旅先を決めていた。落ち着いていて社交的で、僕自身も色々とお世話になった。バックパッカ―としても人間としても優しい先輩だった。
ところで、結婚前後に嫁と世界を放浪するというのは僕の夢の一つであったが、今回の経験を通して少し意欲が失せてしまった。仕事が見つからなかったり命を失うリスクを冒したくないし、お金がもったいないと感じるようになったからだ。それよりも、勉学や仕事の励んで、より多くのお金を稼いだり、知識、人脈を得る方が重要だと思うようになった。海外に行くとしても、安全で便利なリゾートや観光地に行きたいと思った。また、欧米に留学か駐在し、その間に旅をすれば良いと思った。

2.学生バックパッカ―

春休みという時期的な巡り合わせもあり、学生のバックパッカ―に多く出会った。年齢が近いこともあり、一緒に行動した方も多かった。興味深いことに、出会った学生は皆、早稲田や一橋、慶応、京大などの日本では一流とみなされる大学だった。中には、イギリスに留学する人や外資系に就職する人、医者になる人もいた。
恣意的な解釈だが、ある一定以上の語学力、知識、知的好奇心、調査能力、行動力が無ければ南米に視点を向けないだろうし、実際に来ないだろう。単に平凡に大学時代を過ごして来た学生や高卒の方は、敢えて南米まで来ようとは思わないはずだ。

3.女性バックパッカ―

女性一人旅の方、女性数名で世界一周をしている方がいた。社会人になって数年が経った20代後半の方が多かった。女性が世界をあるいは南米を放浪するのは、安全面でも生活面でも決して容易なことではない。きっと何かあったのだろう。と、詮索するのはナンセンスだからやめた。
女性にだって選択の自由がある。女性だからこう生きるべき、という考えをもってはいけない。日本は閉鎖的なムラ社会だから、時には海外に出て自由になるのも良いと思う。そうフォローすればよいだろうか。

4.学生卒業旅行

これまで海外にあまり行ったことがなかったが、学生最後だから海外に、それも日本から最も離れている南米に行こう、と考えた方もいた。彼らは、僕らバックパッカーからすれば、華美な服装を着ていて、金使いも良く、どこか自信があって元気である。つくづく日本は恵まれた国だと思うのは、彼らがいるからかもしれない。ありがたいことである。

5.仕事辞めてきた組

仕事を辞めてとりあえず海外に出てきた方もいた。海外放浪が好きな方、上司と折が合わずに出て来た方、会社が倒産してしまった方たちだった。僕のように転職先を見つけてから海外に出る人はむしろ稀だった。そのため、彼らは比較的長時間自由に行動ができた。
30代の方もいたが、僕と同世代の方が多かった。20代であれば、まだキャリアの自由度があるのだと思う。日本人に限らず、3年ほどのファーストキャリアを経たのちに放浪しているというアメリカ人やフランス人の方にも、ホテルで出会った。
無論、帰国後に仕事が見つかる保証はない。その点に留意し、帰国後もすぐに仕事が見つかるスキルを持った後に旅に出るのが良いと思う。そういう観点でみれば、看護師や会計士といった資格やプログラマーのような働く場所に左右されない職業は良いと思った。

6.ガチ放浪組

自転車で2年ほど南米を周っている方、バイクでアメリカから南下して来た方などがいた。彼らが見てきたことや経験してきたこと、旅に至るまでの経緯、旅を継続していく方法などについては非常に興味深い。
命と時間が二つあれば、僕も同じようなことをしたいと思うかもしれない。しかし、捨てるものが多すぎて今の僕には到底できないであろう。また、一人でこれほども長く旅をするのは、寂しく退屈しないものかと思う。きっと、環境が整っても僕に適応能力が足りずできないだろう。彼らは畏敬に値する。


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追記

世界を放浪することや途上国を長期間旅することに対して一種のあこがれを持っていた。
だから、今回のような旅ができたことは本当に良かったと思う。しかし、旅することを自分探しやら将来やりたい事をする場にしている方がいたが、僕はそうしたくないと改めて思った。
確かに、世界を、とりわけ日本ほど豊かではない国を旅することで得られることは多いし大きい。また、普段日本で仕事をする日々はストレスフルで、希望に満ちているとは言い難い。海外に出れば、様々な発見や出会いがあり、いつのまにか体調も気分もすぐれ、前向きになりうる。
しかし、海外を数カ月放浪しただけで人間が変わることはそうそうない。状況をすり替えてはいけない。海外に行けば自分が変わるのではなく、仕事ややるべき事を離れて気楽に暮らしているから変わるのではないだろうか。海外にいる間に日本が変わったわけでもなく、やるべき事が減ったわけでもない。本人が変わらなければ自分が抱えている問題や乗り越えるべき壁は本質的に変わらない。
だから、逃げてはいけない。逃げる自分を探し回る追い手も、結局は自分なのだ。