巣立つ先

僕が大学を卒業してまもなく一年が経つ。僕の学年では、8割が大学院への進学、1割が留年した。留年した者は就職先が決まり、進学した者はこれから就職活動をするという状況だ。いろいろ話を聞くと、以下のことが分かった。


・院に進学すれば優先して推薦がとれる
・大企業志向が多い
・機械科ゆえか製造業が多い


推薦は、院生が優先され、学部生はそのおこぼれらしい。僕は見聞を広めるための時間は欲しいと思ったが、これといって学問を究めたいという願望はなかったため、学部を卒業したら働こうと決めた。一方、ほとんどの友人は進学の道を歩んだ。特にやりたいこともないが、周りに流されて進学した人もいた。なんだかその目的が今少し分かったような気がした。


推薦枠は限られているため、希望する会社と学生の名前が書かれた一覧を(全て実名)で回覧し、決めていく。希望が重なったら協議し、協議不成立の場合は成績順のようだ。そのため、重ならないように調整し行けるところに行くという人も多い。それから、ほとんどがパナソニックや日立、三菱重工IHIなどの大企業かつ製造業を志望していた。自動車業界は希望が減ったらしい。なんと単純な選択だことか。


マズロー自己実現理論に当てはめれば、この不況下で安定や高収入を優先するという選択は普通のことなのかもしれない。一年間働いてみて、やはり安定と収入は重要な要素だと感じた。それらが欠けていることが多い非正規労働者は、結婚や出産などにたどり着かないこともあるのが現実だ。 

結婚適齢期の男性で2007年までの5年間に結婚した非正規社員の割合は、正規社員の半分にすぎず、出産した女性の割合も非正規と正規社員では2倍近い差のあることが11日、厚生労働省が公表した「21世紀成年者縦断調査」で分かった。
 「派遣切り」などが社会問題化する中、雇用環境が結婚や出産にも大きな影響を与えている実態が浮かんだ。
 同省は少子化対策を目的に、02年10月末時点で20歳から34歳だった男女を毎年追跡調査。6回目の今回は07年11月に実施した。
 02年の調査で独身だった男性約4400人のうち、この5年間に結婚した割合は、正規社員が24.0%、非正規社員12.1%。直近1年間の増加分は正規社員6.0ポイント、非正規社員は3.0ポイントだった。[時事通信]


◇「21世紀成年者縦断調査」
第6回21世紀成年者縦断調査(国民の生活に関する継続調査)結果の概況 - 結婚について仕事の有無別にみた状況や、出産について妻の仕事の有無別にみた状況など。厚生労働省(3月11日)


大企業に入れば、はじめは労働に比して割りに合わないが、長く勤めれば高収入を見込める。若いうちはコツコツ働き、結婚や出産、住居の購入をする年齢になると次第に”割りに合う”ようになる。これがいわゆる年功序列制度の仕組みだろう。また、法制度上、解雇されることもない。思春期に失われた10年を過ごし、今社会に出るにあたって世界大恐慌という荒波を再び目にしたら、やはりより高くて安全な場所に避難したくなるだろう。


とはいえ、正社員もリストラされる時代である。これから先、自分が学んできた知識や積み上げてきたキャリアがいつ陳腐化するか分からない。大学入学後、希望する研究室に入るためにGPAを上げることだけを考えてきた人も多いはずだ。なかには、有用な講義であるのにも関わらず、GPAには関係ないから履修しない人もいた。そして希望する研究室に入れたら、今度は大企業を狙う。線路があって、駅もあって、自分はただ走るだけ。それはそれで、幸せなのかもしれない。しかし、忘れてはならないのは、それはあくまで線路と駅が準備されているということだ。それらが消えたとき、どうすればよいのか?


学問をする本来の目的は、この問いに答えることにあると思う。