ザルツブルグとサウンドオブミュージックの世界へ
11月28日の正午、ミュンヘンに到着し、ミュンヘン中央駅で会社の上司に迎えられ、僕らは会社に向かった。ランチをし、さっそく午後からマンツーマンで研修が始まった。怒涛の技術英語は僕の脳に少なからずダメージを与えてくれた。しかし、僕はなんとか持ちこたえた。それは、翌日があったからかもしれない。
上司は僕のためにザルツブルグへの1日バスツアーを組んでくれたのだ。僕はそれが楽しみでならなかった。朝、ホテルで朝食をとり、洗濯をしてメールチェックして国際電話をかけ、急いで地下鉄に乗った。間に合わないかと心配したが、なんとかバスに乗り込むことができた。すると、驚いたことに、何人か日本人がいた。ライプツィヒの大学に留学している女性、エディンバラ大学に留学している女性、それから英語が話せないカップルだった。嬉しかった。
バスはミュンヘン郊外に抜け、アウトバーンを走り、オーストリア国境に向かった。その間の景色はもう、言葉にならないほど美しかった。秋のバーバリアン地方は、黄葉に加え朝霧や朝焼け、どこまでも続く牧草地、そしてのんびりと草を食べる牛、遠方に立つアルプス山脈がキャンバスに描かれた絵のように美しかった。本当に心が洗われるようだった。
ザルツブルグに着いてからは、途中、シンガポールから来た親子と行動をともにした。彼女らはいわゆる華僑で、3代目だという。娘はシンガポール航空のキャビンアテンダントをしており、時折母親を連れて旅行しているのだという。足が弱い母親を気遣うのその姿はとても心温かく、年上を大切にする中国文化が根付いているのだと思った。歳が近かったからだろうか、彼女はシャイだった。
それでも、時々写真を撮り合った。その微妙な距離感がもどかしくもあり、心がかゆい感じもした。彼女は華美な装いもせずとてもおしとやかだった。中国大陸の女性とはまた一味違った雰囲気があった。そして、英語もマレー語も広東語も北京語も話す彼女はなんとも輝かしく思えた。
ザルツブルグを訪れた後、バスで郊外の湖に向かった。後で調べると、そこはサウンド・オブ・ミュージックの舞台となったところであり、世界遺産でもあった。秋ということもあって、澄んだ空に綺麗な木々、そして湖はまさに天国のような場所だった。ミュンヘンをはじめ、この地方に住む人たちを羨ましく思った。コンクリートに囲まれた東京は、逆に地獄のようなところではないかとさえ思えた。モーツァルトはこの地方で生まれたが、彼がこのような自然の中で感性を磨き、立派な音楽を創ったのも理解できるような気がした。
今回の旅は、本当に良いリフレッシュになった。ヨーロッパ経済は確かに下り坂にあるが、彼らの生活や文化、歴史の質が落ちたわけでは決してない。長年変わらない古き良きものがたくさんある。お金が全ての世界になりつつあるが、しかし、お金で買えないものが多くあると、ヨーロッパに来て思った。
最後にシンガポールの女性と連絡先を交換し、お互い遊びに行く約束をし、別れた。