リアル

僕は小さいころ、女の子としか遊んでいなかった。


日本に来る前は、女の子二人と一緒に遊ぶのが常だった。ある日、彼女らが僕の顔に口紅で落書きをし、なかなか落とせずに母親にだいぶ怒られたことがあった。ふざけて転んでひざが血だらけになることもあった。他人の家の玄関に小便をかけて、こっぴどく怒られたこともあった。

僕が3歳のときに父親が単身で日本に渡って以降、母親は大学で教鞭をとる傍ら僕の世話していたので、大変だっただろうなと今さらながら思う。一方で僕も、寂しいおもいをしていた。

日本に来てからも、きみこやゆかり、あきよ、まゆみと、女の子と二人で遊ぶことの方が多かった。振り返ってみると、どの子も親が離婚していたり、あるいは自営業で忙しくてほとんど子どもの世話をしていなかった。僕の場合も、父親の学費や家庭の生活費を稼ぐため、両親は大学やアルバイト先にいることが多かった。そのため、僕は一人で夕食を食べ就寝することが多かった。そういう共通点が僕らにはあった。

きみことゆかりは親が僕の家まで連れて来ていたし、あきよは弟を連れて僕の家に来ることが多かった。そのような関係はごく自然だと思っていたが、次第に学年が上がると、相手をみる視線が変わり、また、周りの視線を気にするようになり、そういった関係は薄れていった。ときどき、そのような変化を切なく感じることがあった。


思春期に入ると、異性を気にしはじめるというのが常識だ。僕もそうだった。しかし、違和感もあった。それは、異性を異性と捉えなければいけない義務感みたいなもの。それが嫌だった。ただ繋がりたいだけなのに、諸々の事をしないとそれができないのが徒労に感じられた。ただ繋がりたいだけなのに!



日本に来る前によく遊んでいた女の子のうちYが好きだった。初恋だった。
しかし、僕が6歳で日本に行って以降、ずっと無音沙汰していた。そんな折、偶然にも先日連絡がついた!母親が帰国中に、偶然にも勤務先だった大学内でYの母親に会ったのがきっかけだった。現在Yは投資会社で働いているという。さっそくメールしたところ、返信が来た。実に19年ぶりのやりとり!メールを読んで、諸々の事を思い出し、思わずパソコンの前で泣いてしまった。

その後に胸にやどった不思議な感覚。なんだろう。氷が稲妻に打たれて溶け出していくようだ―。